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ちぐはぐな電力政策立て直しを


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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(「」より転載:2023年8月7日付)

 電力政策のちぐはぐが止まらない。猛暑の中、エアコンをつけるにも電気代が気になるという方も多いだろう。電力自由化によって電気料金を低廉にすると政府は謳っていたが、6月までは自由料金が規制料金を上回る状態だった。

停滞が続く原子力政策

 そもそもわが国の電気の原価は5割から7割近くが燃料費だ(今年の電力各社の値上げ申請査定結果から算出。送配電費用除く)。燃料調達コストを抑える魔法の杖はないが、購買力向上には規模の拡大と長期の事業予見性が重要だ。旧大手電力会社の市場支配力を払拭し、多数の新規参入事業者を得ることを目的とした現在の自由化で、本当に電気料金を抑制できると考えていたのだろうか。

 東京電力福島第1原発事故を契機として電力自由化は急速に進められたが、原子力政策は停滞を続けた。安価な電力を大量に市場に供給する原発が稼働していれば、自由化の果実として期待された低廉な電気料金を達成しやすかっただろうが、2つの政策のテンポは大きくずれたままだ。6月から旧大手7社が規制料金を値上げしたが、原発再稼働が進む関西・九州電力は値上げを回避できている。

 なお燃料費上昇で営業キャッシュフローがマイナスに陥っている会社もある。適正な料金引き上げで財務健全性を取り戻さなければ資金調達コスト上昇に留まらず、経営不安定化につながる。各社の申請に対して消費者庁はカルテル問題等による不信感を理由に承認に時間をかけたが、インフラの担い手の健全性を損なうだけだ。

さまざまな環境が変化

 政府は化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換するGX(グリーントランスフォーメーション)を進めるとしている。DX(デジタルトランスフォーメーション)とも相まって、停滞するわが国の経済を成長させるための重点分野だ。DXを進めればデータセンターの増強は必須となるが、近年、わが国の発電設備容量は急激に減少している。

 原発事故を契機に約16ギガワットの原発が廃止され、小売り全面自由化が実施された2016年以降、休廃止された火力発電所の設備容量は14ギガワットに上る。同期間に再生可能エネルギーは9ギガワット以上増えたが、主力の太陽光発電が低調な冬の曇天、夏の夕方などに需給逼迫が生じやすくなっている。供給力不足は複合的な要因によるが、適切な電源投資がなされていないことは確かだろう。

 気候変動対策を進めれば電化を促進し電力需要は増加する。デジタル化や半導体工場の誘致などの産業政策によっても電力需要は増加する。電力自由化はいざという時の供給余力を削ることを促す方向にあったが、カーボンニュートラルやGX・DX、産業政策の制約となる恐れが多分にある。原発事故を経て電力システム改革の方針が定められた当時とはさまざまな環境が変化し、早晩、電力自由化を根本的に修正しなければならないことは間違いないだろう。

自由化施策の検証と見直しを

 電力政策の目指すところは、安定供給の維持と適正な価格形成だ。自由化の下でこれらを効率的に達成することができていない。加えて現状の自由化の下では、脱炭素化という新たな社会的要請に対応できないことが明らかになりつつある。

 近年、各国の研究者から、低炭素技術への大規模な投資を必要とする脱炭素化政策は、現在の自由化では限界があるとの指摘がされている。

 従来の改革手法への対案として提唱されるのが、国などが必要と考える電源を長期契約の公募や長期電力購入契約(PPA)などで確保し、これら固定費回収を見通せる電源が短期の市場における競争を通じて最適運用されるという「ハイブリッド市場」だ。長期で必要な電源量を政府などが定めることは、競争政策の後退あるいは放棄と捉えられる可能性もあるが、電力自由化の父とでも言うべき米国の経済学者がハイブリッド市場の優位性を唱えていることは注目に値する。

 低炭素電源の中でも特に原発は投資の意思決定が難しい。市場原理の下での事業環境整備と同時に、安全規制の効率化や事故時の損害賠償制度改正などによる事業環境整備、立地地域の理解促進のための国の支援のあり方などさまざまな改正がなければ、その活用は絵に描いた餅になるだろう。

 わが国でも、長期的な供給力確保に向けて制度改正は行われている。しかし、カーボンニュートラルやGX・DX、半導体工場誘致などの産業政策が電力需要に与える影響を見通しながら、それらの政策と電力政策の平仄を合わせる司令塔機能が欠けている。

 デジタル化を推進するシンガポールでも、電力供給の制約により2019年から約3年、データセンターの新設を禁止する事態になった。電力政策のちぐはぐによって、わが国の全体戦略が停滞することがないよう大胆な見直しが行われることに期待したい。