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原子力発電所の稼働期間延長に関する考察


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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(「」より転載:2023年4月号 Vol.59 No.4)

 岸田政権が2023年2月に閣議決定したGX基本方針は、徹底した省エネの推進や、再生可能エネルギーの主力電源化、原子力の活用、水素・アンモニアの導入促進などを含む14の取り組みと、「成長志向型カーボンプライシング」の素案を掲げる。原子力発電については、原子力規制委員会による安全審査に合格し、かつ、地元の理解を得た原子炉の再稼働を進めるという従来の方針に加えて、次世代革新炉の開発・建設に取り組むこと、既存の原子力発電所の活用に向けて一定の停止期間に限り、追加的な延長を認めることが明記された。
 筆者の見解としては、技術の新陳代謝によって、安全性や効率性を高めていくことが技術利用における基本であると考えているが、「まだ使える」原子力発電所を早期に廃止することは国民経済にとってはマイナスとなるし、特にわが国においては福島第一原子力発電所事故の経験を経て、安全規制を抜本的に見直して対策を行っている。安全性にかかわる事柄であり、科学的知見に基づく議論が必要とされるが、この運転期間の制限に関しては、どのような経緯で追加的な延長を認めるという判断が為されたのであろうか。報道も表層的なものが多く、議論の全体像が分かりづらい。これまでの経緯を整理し、GX基本方針が謳う原子力の活用に向けて何が必要なのかを述べたい。

原子炉等規制法改正を巡る議論

 福島第一原子力発電所事故(以下、福島原子力事故)を経験し、当然のことではあるが、原子力発電所の安全確保のあり方は根底から見直されることとなった。事故発生後、行われた対策は主に下記3点に分類される。

規制組織の刷新(原子力安全委員会、原子力安全・保安院の解体と原子力規制委員会の創設)
原子炉等規制法の改正と原子力規制委員会規則(以下、新規制基準)の策定・施行
事業者による、新規制基準適合に向けた安全対策の実施と自主的安全性向上に向けた取り組み

 この中で、原子炉等規制法については2012年に与野党共同提案の議員立法で改正が進められた。その際に、運転期間の制限の規定(設備の運転開始前に求められる、使用前事業者検査の確認を受けてから起算して40年を運転できる期間とし、20年を超えない期間で1回限りこれを延長することができるとする)が盛り込まれたのである。
 どのような根拠で40年、60年といった年限が定められたのか、当時の国会での議論を振り返ると、驚くべきことに「科学的根拠は無い」と明言されている。2012年6月15日、衆議院の環境委員会において、提案者として答弁した自民党の田中和徳議員は「まず、40年という数字の設定が非常に政治的なものであって、科学的な根拠に基づかない。」と明言している。その上で、原子力発電所は建設時期や地理的条件などサイトによって全く異なるので、「独立した三条の機関ができていくわけでございますし、そこで選ばれた委員の皆さんがお決めになるということが当然のことでございます。」としている。また、当時民主党野田政権で担当大臣を務めていた細野豪志衆議院議員と筆者が2022年12月にテレビ番組で同席したときに、同議員からも「科学的根拠は無かった」との発言が為されている。
 原子力発電所の運転期間を制限する規定を置くことで安心したいという世間の要請に応えるために、安全規制に運転期間の制限を盛り込んだということであり、本来科学的・技術的根拠に基づいて行われるべき安全規制改正に向けた議論のあり方としては乱暴なものであったと言わざるを得ない。
 もし脱原子力を政策として決定するなら、その目的として「原子力の研究、開発及び利用(以下、「原子力利用」という。)を推進することによって、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与すること」を掲げる原子力基本法を改正して、利用の推進という方針を転換することを明示し、必要な措置として例えば、これまでの政策の下で行われた投資の未回収分や、バックエンド費用の回収不足などへの手当てを行うべきであっただろう。

ドイツの脱原発はどのように進められたのか

 脱原発を政策的に進めたドイツはどのような法的立て付けによってこれを進めたのであろうか。結論から言えば、その根拠は専ら原子力法であって、安全規制に拠るものとはなっていない。
 ドイツの原子力法はこれまで二転三転を重ねてきた。その経緯は、筆者が第5章を担当した『電力システム改革の検証― 開かれた議論と国民の選択のために―』(山内弘隆・澤昭裕編。白桃書房)に詳しいのでここでは割愛するが、原子炉の運転に制限を設ける規定は同国の原子力法(Act on the Peaceful Use of Nuclear Energy andProtection against its Hazards: Atomic Energy Act)第7条の原子炉施設の認可についての定めを改正して設けられている。同条1a項において、各原子炉が附属書Ⅲに定める電力量(閉鎖までに各炉が発電できる電力量の上限。一定条件下で原子炉間での融通が可能)あるいは同項1~6号に定める閉鎖期限のいずれかに到達し次第、順次運転を終了することが定められている。
 なお、ドイツは2022年末で国内すべての原発の運転を停止する予定であったが、ウクライナ危機等によるエネルギー供給不安を受けて、同年10月にイザール2、エムスラント、ネッカー2の3基について、2023年4月15日までの運転延長を決定した。それは同条1a項の例外規定として、第7条1e項に規定されている。同項では、1a条の規定(元来、これら3基は2022年末閉鎖予定)にかかわらず、3基の運転の権利失効を2023年4月15日とすること、また運転は各プラントに既に存在する燃料のみで行うことなどが定められている。つまり、後述する「原子炉安全要件(SiAnf 2015)」等に照らして判断される技術的安全性とはかかわりなく、この7条規定により、ドイツの原子炉は閉鎖されることとなる。
 なお、ドイツの原子力発電に対する安全基準は、連邦環境省と、各州の原子力当局(≒各州の環境省)の合議機関である連邦州原子力委員会で採択、官報公示される「原子炉安全要件(SiAnf 2015)」によって定められている。これ自体は法律ではなく、上記の原子力法とともに、各州や連邦原子力当局の規制権限の行使にあたる判断基準とされる。この安全要件は、2011年の福島原子力事故の影響を受けて、2012年に初版策定されているが、原子炉閉鎖に関する根拠はここにはなく、あくまで原子力法第7条が根拠となっている。
 こうした原子力法の改正による政策変更に対しては、大手電力会社3社から財産権の侵害として訴訟が提起された他、福島原子力事故から3カ月の間でメルケル政権がすべての原子炉の一時停止と点検を命じた「原子力モラトリアム」の妥当性を争う訴訟や放射性廃棄物の最終処分場建設を巡るゴアレーベンの調査費用に関する訴訟など、複数の訴訟が事業者から提起され、部分的ではあるが事業者の主張が通り、事業者に対する補償を認める判断が示されている。
 なお、バックエンド費用については2016年に、大手電力会社が235億5,600万ユーロを国が設立する基金に払い込むことが決定した。以降の中間貯蔵や最終処分場の建設・運営に係る費用が増大したとしても、事業者はその負担を求められることはない。当時見積もられていたバックエンド費用は414億ユーロであったが、そこから大幅に増大した場合には国民負担となる。

原子力規制委員会の見解とGX束ね法案の改正

 一般的に設備の寿命は当初の導入技術や設置条件、メンテナンスや使用条件によって大きく異なるため、一律に定めることは困難である。そのため諸外国でも原子力発電所の運転期間を安全規制によって制限する例は無く、ライセンス期間を区切って、定期的に設備の安全性を確認して運転の是非が判断される。
 わが国では、原子炉等規制法に運転期間の制限を定める規定が盛り込まれたが、改正を巡る国会答弁において、当時設置が進められていた原子力規制委員会での議論に委ねるとの発言もあり、2018年8月に大手電力会社各社から原子力規制委員会に対して、科学技術的観点から、安全規制としての運転制限の在り方を検討するよう要請された。
 原子力規制委員会は約3年をかけてこれを検討したものの、2020年7月、運転期間を40年とする定めは評価を行うタイミングでしかなく「発電用原子炉施設の利用をどのくらいの期間認めることとするかは、原子力の利用の在り方に関する政策判断にほかならず、原子力規制委員会が意見を述べるべき事柄ではない。」として、その判断を利用政策に委ねている。
 こうした原子力規制委員会の判断を受けて、2021年10月に策定された第6次エネルギー基本計画において、「停止期間の長期化を踏まえ、安全を確保しつつ長期運転を進めていく上での諸課題を検討する」との方針が示され、GX基本方針の実現に向けた通称「GX束ね法案」(「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」)において、運転開始から30年以降は、10年以内毎に点検を受けることを義務付ける(原子炉等規制法)とともに、原子力事業者が予見し難い事由による停止期間に限り、60年の運転期間のカウントから除外する(電気事業法)とが審議されている。
 原子力規制委員会が2020年7月に公表した見解を踏まえ、運転期間の制限については、従来の原子炉等規制法ではなく、利用政策を定める電気事業法に規定されることとなった。他方で、原子炉等規制法には「運転開始30年以降、10年以内毎に、設備の劣化に関する技術的評価を行う」との長期運転に係る安全規制の強化が盛り込まれた。ただし、電気事業法の規定は、米国や仏国等のように「運転期間の上限を設けない」仕組みとはされず、現在の原子炉等規制法にある「60年」という上限を踏襲した上で、そのカウント期間から長期化した停止期間を除くという案に留まっている。
 そもそも停止期間の除外を議論する必要が生じたのは、規制基準への適合審査による停止が余りに長期化しているからだ。原子力発電所の新規制基準への適合審査は、全て原子力発電所の運転を停止させるものとされた。実はこのように原子力事業に非常に甚大な影響を与える判断も、原子力規制委員会の委員長による「私案」が定着したものだ。規制活動が適切に行われているかどうか、国会がチェック機能を果たす体制なども検討する必要があるだろう。米国では議会が原子力規制機関の審査活動が効率的に行われているかどうかのチェックをする義務を負っている。

40年運転により安全性は低下するのか

 議論の経緯はさておき、国民が最も気になるのは「長期運転によって安全性は低下するのか」ということだろう。まず、世界でこれまでに発生した深刻な原子力事故が起きたタイミングを確認すれば、東日本大震災による地震と津波によって引き起こされた福島第一原子力発電所事故以外は、概ね運転開始から2年以内に発生していることが指摘されている(表1)。


表1 過去に発生した深刻な原子力発電所事故
(出所:山口彰 東京大学名誉教授、私信、2023年2月10日)

 一般的に時間が経過することによって起こってくる機械や装置の故障の割合の変化をしめすグラフのうち、バスタブ曲線(故障率曲線)と呼ばれるが、運転開始から間もない期間(一般的には約1年間)は初期故障が発生しやすい。しかし習熟によりそれが落ち着くと故障率が低下し、いずれ経年故障が増加するタイミングを迎えると考えられる。
 一定の運転期間を経過した原子力発電所に、経年故障の発生増加の兆候が見られるようであれば、運転期間を制限することは妥当であるが、IAEAが公表しているデータを見ると、422基の原子力発電所のうち、50年経過が27基、40年経過が114基あるが(図1)、それらの設備利用率は総じて80%以上であり低下する傾向はみられていない(図2参照)。


図1 運転開始からの経過年数ごとの設備容量と炉数
(出典:IAEA PRIS)

 わが国よりも原子力発電所の導入で先行した米国や欧州各国は、当然発電所の高経年化において先行する。米国では40年経過の原子力発電所が全体の4割以上を占め、80年運転の認可を得た発電所が既に6基存在する。圧倒的に多額の安全対策投資を行ったわが国と単純比較することは難しいが、先行する他国で蓄積される知見を参照しつつ、高経年化炉の活用と安全性を検討することが必要だ。


図2 運転開始からの経過年数ごとの設備利用率
(出典:World Nuclear Association)

まとめとして

 冒頭で述べた通り、基本的には、技術の新陳代謝を促進していくことが望ましいことは間違いなく、運転期間を延ばすことがかえって、本来あるべき新設・建替えへの事業者のモチベーションを削ぐことを懸念する声もある。しかし、新設・建替えと運転期間の延長は二者択一ではなく、両方進めなければわが国の脱炭素電源確保や原子力発電に関する技術・人材・サプライチェーンの維持に課題を生じる。むしろ、新設・建替えに要する時間を考えれば、このまま早期廃炉が進んだ場合、10年以上停滞し続けているわが国の原子力技術では新設・建替えも机上の空論となりかねない。
  わが国のGXに向けて原子力を活用するのであれば安全性の確保が大前提であり、それには科学的・技術的知見に基づき安全規制を進化させることが必要であろう。

【参考資料】

1)
「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」
2)
原子力規制委員会「運転期間延長認可の審査と長期停止期間中の発電
用原子炉施設の経年劣化との関係に関する見解」
3)
経済産業省プレスリリース「「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました」
4)
厚生労働省 職場のあんぜんサイト
5)
第180回国会 衆議院 環境委員会 第6号 平成24年6月15日
6)
『電力システム改革の検証― 開かれた議論と国民の選択のために―』
(山内弘隆・澤昭裕編。白桃書房)P.135-138
7)
BSテレ東「石川和男の危機のカナリア」2022年12月31日放送
8)
ドイツ原子力法第7条
9)
ドイツ原子炉安全要件(SiANF2015 2022年最終改正:ドイツ語版)※1,2
※1
同安全要件は、上記の原子力法第7条に基づく「利用可能な最高水準の科学技術;Stand von Wissenshaft und Technik(EUの原子力安全指令等でいうところのBest Available Technology(BAT))に従って要求される予防措置等を具体化したもの。原子力法7条や7d条などの詳細要件として、各州や連邦原子力当局の規制・監督権の行使の判断基準となるもので、当局が事業者に指示命令をする際の文書に、原子力法とセットでこの要件が明示的に参照される形となる。
※2
この安全要件は、2003年から起草手続きが進められ、2011年の福島原子力事故の対応を反映しつつ、2012年11月に第1版を策定(2013年1月公示)。その後、EU原子力安全指令等を反映させたものを「SiAnf 2015」として公表。その後、用語の明確化などの微修正を経て、2022年に最終改定版を公表。
10)
World Nuclear Association Mean capacity factor 2015-2019by age of reactor